『アジア・太平洋戦争に よる/おける 行為の哲学』補足 2007.5.7

 本を出したので、興味のある方は読んでほしい。
 アジア太平洋戦争とは何だったのかについて述べたもので、青葉慈蔵尊に関係する集団自殺事件などとは全く関係ないが、私の考え方をより明確に述べている。
 全3巻の予定の第1巻だが、独立したものとしても読める。この巻ではアジア太平洋戦争の概観と、歴史についての基本的な考え方、日本史を貫く原理(因果関係)までを取り上げた。
 哲学とタイトルを付けたが、一般的にいってそう呼ぶしかないだろうからで、私としてはあくまで科学のつもりである。一部の哲学と称されるものの難解さなどはないと思う。
 中学生でも読めるものを書きたかったが、少し難しい漢字を使わざるを得なくなり、およそ高校生位からの若い人と、あの戦争を実際に体験した方に特に読んでいただきたく思っている。

 なかなか書店に並ぶことはないと思うので注文していただきたい。

『アジア太平洋戦争に よる/おける 行為の哲学』
夏の形 揺籃社 ISBN4-89708-233-1 1200円
揺籃社
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 第3巻まで終えてからあとがきを書くつもりだが、書きたいと思ったことをここで書いておく。
 この本の中で私は社会生物学者(というよりドーキンス)に批判を加えているが、もし前にスティーブン・ジェイ・グールド(英語のスペルが Stephen なのに、どうしてスティーブンなのか分からないが)の本を読んでいたら、もう少し別の表現になったかもしれないと思う。
 グールドも社会生物学に批判的で、進化と歴史に偶然性を重んじるところなど、私には好ましいところが多い(それに対して、基本的には同意できるのに、何故かドーキンスには反発の思いが湧く)。とはいっても、グールドの全てを認める訳ではない。私はグールドのような不可知論者ではない。時にそのようなことも言うけれど、私は全てのことに根拠を求める(より正確には、その限界まで根拠を求める)。私は社会生物学を認めてもいる。『社会生物学の勝利』という本が出ていて、ざっと見てとんだウソッパチだと思ったけれど、人間の行動が遺伝的・生得的なものに強い因果関係を持っているのは確かで、その方向をどこまでも追及すべきだと考える。
 私は歴史事実を知るのに忙しくて、グールドを読んだのもこの本の校正中だった。そして、その時には何年も前にグールドが亡くなったことを知らされる。グールドの人間性にあふれた文章と、そして生物学の新しい知識を得る手段を私は失った。大空のひときわ明るい星、ジュピターを失ったかのように寂しい。
(それにしても、グールドをはじめとして、多くの人がダーウィンを偉大な人物とみなしている。本当だろうか、と思う。キリスト教に由来する創造説の強かった欧米の特殊事情のせいではないか。ダーウィンの主張は、生物は時間とともに変化することだが、それは当り前のことではないか。どんな風に変わるかについても、ダーウィンは述べてはいるが決して十分なものではない。本人はいたって真面目で人をだますつもりはなかったろうが、必要以上に他人に影響を与え、結果的に害悪をもたらしたという意味のペテン師がいる。マルクスやフロイトといった連中である。ダーウィンもその仲間であるかもしれない。)

『アジア・太平洋戦争に よる/おける 行為の哲学』では、その性格上からも直接引用したものの外は出典を示さなかったが、特殊な本はまず参照していないと言ってよい。普通に歴史の本を探せば見つかるようなことしか扱っていない。
 ただし、太平洋戦争(第二次世界大戦のアジア・太平洋方面)でのアメリカの被害については、それを記した本は、数少ないので、ここにその出典を記しておく。直接参照したのは、『アメリカ人の歴史 V』(ポール・ジョンソン 2002年7月30日第1刷発行 別宮貞徳、訳 共同通信社)である。そのp.279によると、アメリカ軍はおよそ沖縄戦終了の頃までに、「戦闘による死者がヨーロッパで二八万六七七人、太平洋で四万一三二二人を数え、さらに非戦闘による死者が一一万五一八七人、そして(死亡にいたらなかった)負傷者が九七万一八〇一人におよんでいた。そのうえ(あとでわかったことだが)、日本軍の捕虜となった(総数二万五六〇〇人の)アメリカ兵も一万六五〇人が死んでいた。」とある。おそらく、アメリカ側の公刊戦史などから得た数字で、つまりアメリカ側の公的な数字であるのだろう。
 戦死者41,322人、大きい数字には違いない。しかし、日本人の死者数と比べてその大きな違いに慄然とする。と同時に、近頃のイラクにおけるアメリカ人とイラク人の死者のことも思い起こさせる。第二次世界大戦全体でのアメリカの戦死者(戦闘による死者)がおよそ30万人であることはいくつかの本に出ている。

 2006年、S=マックイーンが硫黄島を題材にした2本の映画を公開した。中でも日本側から描いたという『硫黄島からの手紙』は高く評価され、ゴールデン=グローブの外国語映画賞を取り、アカデミー作品賞を獲得した。こういう映画がつくられたことは意義深いことに違いない。けれども、私は複雑な思いを禁じ得ないのだ。
 硫黄島の戦いにおける死者は、(本によって数字は違うが)アメリカ側の死者が約7,000人、日本側の死者が約21,000人というところであるらしい。もともと、何故アメリカ軍が硫黄島を攻略するかといえば、当時B29は故障が多くて、サイパンから日本に爆撃に向い戻って来る間に不具合が生じた場合の避難基地にするのが目的であった。一体、硫黄島を基地にすることによって助かったB29は何機であり、何人の命が救われたのだろうか。それは、硫黄島の戦いで死んだ日本人・アメリカ人の合計約28,000人の命に見合うものだったのだろうか?
 硫黄島には、日本人約22,000人ほどがいたらしい。交通線が遮断され草木も満足に生えないような島で、そうでなくても死につつあった。アメリカは、一旦戦いが起こったなら、硫黄島のほとんどの日本人が死ぬだろうことを知っていた。太平洋の島々で「玉砕」したように「玉砕」するだろうことをよく分かっていた――明らかなことである。アメリカは、最初、一週間で攻略できると考えていたというから、一週間で日本人約22,000人を殺せると考えていた訳である。そうして、一か月以上かかり、アメリカ側の死傷者も多くなったが、その通りに殺した。
 何のための戦いだったのか。本当に必要な戦いだったのだろうか? 一週間で攻略できる、簡単なことだと思ったのだろう。しかし、そういう訳にはいかないと分かっても、一旦戦いが起こったのなら、決着が付くまでやらなければならない。それが、戦いというものである。けれども、おろかなことである。そんなに、勝利の栄光とは素晴らしいものなのだろうか。
 確かに敗者の側から映画を撮ることは意義深いことだろう。しかし、敗れたとはいえあいつらはよく戦ったよというのなら、それは勝者のおごりというものではなかろうか。いいや、その題名からみて、『硫黄島からの手紙』は、戦いそのものよりも、日本側の背景というものを描いているのだろう。私は『硫黄島からの手紙』を観ていないし、今後も観るかどうか分からない。ただ、硫黄島の日本兵がどんな手紙を送ったのかは、映画を観なくとも大体分かっている。一言でいえば、父として、あるいは家族の一員として、家族やそれから友人などを思いやる手紙であることだろう。そんなことは分かっている。
 硫黄島におけるアメリカは既に述べたようなものだった。そして、結局は、「玉砕」するために戦っていたような日本軍の特殊さを思って、私の心は複雑に揺れ動く。『硫黄島からの手紙』という映画はそんな私の心を慰めてくれるだろうか。

『アジア太平洋戦争に よる/おける 行為の哲学』の目次を示しておく。

はじめに 本書の構想
目次
一 アジア太平洋戦争とはどんなものだったのか?
 一・一 アリの帝国――日本人はどこまでアリになったか?
 一・二 対米戦
  一・二・一 開戦
  一・二・二 開戦の論理
  一・二・三 敗因
 一・三 アジア太平洋戦争の問題点
  一・三・一 「玉砕」と特攻
   一・三・一・一 「玉砕」と「生きて虜囚の辱を受けず」の意味
   一・三・一・二 特攻の意味
  一・三・二 全ては戦いのためか――アジア諸国の被害も?
二 考察1 歴史・真理・歴史における原理
 二・一 歴史を描くということ
  二・一・一 歴史の真実と因果関係
  二・一・二 真実性と真理性
 二・二 歴史における原理
  二・二・一 遺伝子主義の原理
   二・二・一・一 歴史描写の根拠としての行動の進化
    二・二・一・一・一 進化論の原理
    二・二・一・一・二 利己的遺伝子論の誤謬
    二・二・一・一・三 行動の進化――無意味なものが進化することについて
    二・二・一・一・四 目的と遺伝子主義――遺伝子主義は如何にして人間を迷わせてきたか
   二・二・一・二 江戸時代の遺伝子主義――徳川斉昭の場合
  二・二・二 階級の原理
   二・二・二・一 階級の原理とは何か?
   二・二・二・二 階級制の発生
   二・二・二・三 集団の原理+階級の原理=支配の原理
   二・二・二・四 階級制と遺伝子主義の結びつき
   二・二・二・五 階級制と遺伝子主義の展開
   二・二・二・六 階級の原理の妥当性について
 二・三 戦いはどこまで行為なのか?
  二・三・一 人間の戦いの考察
   二・三・一・一 戦争における行為の規則
   二・三・一・二 スポーツにおける戦い
   二・三・一・三 戦いの中の二重構造
  二・三・二 報復の七倍則
  二・三・三 戦争の意味とその未来


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